慟哭 貫井徳郎

Tom2003-08-18


読み終わってまさに「仰天」。ビジネス書ばかり読んでいたので、小説の展開は意外で面白い。推理小説はぼくのもっとも好きなジャンルであるが、その面白さは作者の仕掛けた罠にはまってしまうことだとおもう。そんな罠に嵌ってしまいたいあなたに絶対的にお勧めするのがこの作品、貫井徳朗の処女作「慟哭」である。

娘を亡くした哀しみでなにかに縋らずには最早生きられない無職男性の松本と、警視庁捜査一課課長でキャリア組の佐伯の異なるストーリーが交互に展開。松本は縋る先を新興宗教に求めどんどんとその道へと引き込まれ、佐伯は連続幼女殺人事件の捜査本部を取り仕切るものの事件の解明は難航する。社会的タブーをリアルなまでに表現し、警察のキャリア・ノンキャリア構造の理不尽、新興宗教のはまり方、政治家と警察高官の癒着、不倫、そして殺害の心理描写が読者を作品に引き込ませる。また、貫井独特の難しい漢字を使った表現にも知的好奇心を刺激される(あえてこのレビューも貫井を意識して難しいことばを使ってみた)。

あなたは一体何処までこの作品を推理することができるか?読み終わってみると随所にヒントは散りばめられている。健闘を祈る。


おすすめ度 ☆☆☆☆☆

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慟哭創元推理文庫