「クビ!」論

Tom2003-09-08


人事マンとして、最近気になる本があった。「クビ!」論、著者の梅森浩一氏は外資系企業の人事部長時代、1000人以上のクビを切った“クビキラー”。自らの体験をもとに、外資のドライだけど前向きな雇用関係を支持し、正しいクビ切りは企業を再生し、経済を再生すると主張する。クビになる社員の条件として、働きの割に給与が高いことをあげているが、それが故に、クビ切り終了後、自らお役ごめんとなった著者は現在この本をきっかけに人事コンサルタントとして独立を果たした。

この「クビ!」論に対して、外資系企業の人事マネージャーのわたくしの切り口で評論してみたい。

まず、筆者の主張である「正しいクビ切りは企業を再生し、経済を再生する」に対してわたくしは支持の立場である。日本で200人が早期退職、アメリカで1300人が指名解雇される人事の現場にいて、正しいクビ切りは企業存続のために不可欠であることを実感している。手遅れになってからではもう遅いのである。ビジネスが変化していくのと同様に継続的に人員を適正サイズに変容させていかねばWINはない。組織には緊張感が必要である。早期退職が終わると嵐が去った後ような平穏な空気をつくってはいけない。著書にも出ていたが、GEの10%のローパフォーマー幹部切りは組織の新陳代謝を促進するカンフル剤だ。既存組織の経営者になったら採用したい戦略の一つだ。

次に、反論であるが、日本でやる以上、外資系企業といえども指名解雇は違法色が強い。適正なステップを踏まないで、合併による人員整理を進めれば訴える勇気のある人がいれば裁判沙汰になる。アメリカでは「Employment At Will」といって雇用(採用も解雇も)は経営者の自由とされているのに対し、日本では雇い入れ(採用)の自由は民法で認めているものの、解雇に対しては自由度は少なく正当な理由がない限りできないとされている。コンプライアンス経営は企業を営む上での最低限守るべきルールだ。アメリカで認められていることは必ずしも日本では通用するとは限らない。

それともうひとつ反論。わたくしの自論はクビは未然に防ぐべきだというものである。大量人員整理の後に、適正人員維持の時代が日本にもやがてやってくる。適正に人員を調整できるということは、いつでも中途採用の門戸が開かれているということであり、組織に必要な人材を「しっかりと見極めて採用」することが大事な入り口になってくる。組織で継続的に能力を発揮できるかどうかを見極める、行動インタビューの仕組みの導入、ハイパフォーマーを採用するための魅力のある会社作り、採用して失敗がわかったときの試用期間中の解雇の仕組みの整備が必要だ。それから、採用した人材が組織へすぐに適合できるためのインダクションプログラムの整備と継続的にパフォーマンスを発揮するベースとなる能力開発のプログラムをみっちりと作り、投資した人材から確実にリターンを得るパターンが必要だ。それでも組織に生かされない人材には、去っていってもらう文化をつくるべし。纏めると、採用と研修、パフォーマンスこそが適正人員維持への黄金律だということである。

最後に、筆者は自分に明確な目標を与えたくれたと感謝している。自分のキャリアの上でのゴールは、コンサルタントとして独立して、日本経済の発展に役立つよう、執筆&講演活動をすることである。筆者はそれをはじめている。筆者は45歳。自分は10歳以上も若いが、まだまだ時間があるとは思っていない。筆者の活動をこれからもウォッチしていくことにする(左上のアンテナに加えた)。

おすすめ度 ☆☆★★★
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「クビ!」論。


日経の取材記事
http://ex.nikkeibp.co.jp/jobnews/int/i20030908_1.shtml