経済のグローバル化と日本のアウトソーシングの行方

[ボトムライン]

●日本語を話せる中国人を増やすことが日本のアウトソーシングの活路だ。

                                                                                                                    1. +

この10月1日からアメリカでのH1-Bビザの発給部数が195,000から65,000に激減した。H1-Bビザは外国人がアメリカで働くために必要なビザの一種で、シリコンバレーのハイテク職種のビザは一般的にこのことを指す。ちなみにぼくのビザの種類はL-1という種類で、企業内転勤のビザで年間の発給限度数がないため今回の変更の影響は直接受けない。

アメリカ当局がH1-Bビザ発給限度数を大幅に削減した背景はこうだ。
「安価な労働力を輸入することによって、アメリカ人の失業率が高まっている。」

実際、多くのインド人エンジニアがシリコンバレーに移住し、高給取りのアメリカ人の職を奪っていったことはこれまでの事実である。

それでは、この発給制限によってアメリカ人の失業率は回復するのか。答えは「疑わしい」。オフショアでのアウトソースが増えるだけとの見方が多くのメディアでなされている。

ビジネスウィークからの抜粋
strangling the visa program could undermine U.S. competitiveness and prompt American employers to send more jobs overseas.

http://www.businessweek.com/magazine/content/03_34/b3846032.htm

制限して失業率を下げるつもりが、労働力の国外流出という本末転倒の結果になるとの予測だ。実際インドにはインテルが研究開発機関を設立し、インド市場の倍もの給与で優秀な人材を刈り集め、他の企業も負けず劣らずの待遇で人材を集め、今年インドの昇給率は10%もざらである。ハイテク企業は英語が喋れる点に注目し、カスタマーサービスをインドに移管している。発音のトレーニングが課題だそうだ(インド人の英語の発音は独特でアメリカ人にとっても聞きずらい)。アメリカ企業のアウトソースは英語圏のオフショア国であるインド、アイルランド、オーストラリアに向かっている。ハリウッド映画のマトリックスIIとIIIは実際、オーストラリアで製作された。グローバル化による競争の激化は、さらなるコスト削減努力を企業に突きつけ、その結果、より労働コストの安価な地域に雇用がシフトすることになったわけである。

では、日本のアウトソースの現状はどうなっているか。製造業における工場や生産拠点の海外移転は以前からさかんに行われているが、その波はサービス業には行き届いていないのが現状だ。沖縄の経済特区に多くのコールセンターが移転したが、首都圏よりやや人件費の安い国内地域に雇用がシフトしたのみである。経済原理は働いているがドラスティックなものではない。障壁は何か?もちろん日本語という特殊言語である。日本人以外に世界で日本語を母国語として話す国はいまのところない。だから労働コストに注目して中国にコールセンターを移そうとしてもそれができる人材がいないのである。

ただ、それをしないと日本はコスト競争で敗者となる。中国で日本語を話せる人が増えればサービスのアウトソースは可能だ。それには二つの方法が考えられる。一つ目は、日本から中国へ日本語教師の派遣である。中国に日本語学習を奨励する経済特区をつくり、日本語を教える教師を派遣することで、その地域にサービス業のアウトソースが誕生する。国境を越えてひとつの共同体になるのである。二つ目は、中国から留学生を積極的に受け入れる。優秀な中国人はみんなアメリカに行きたがるが、日本も結構人気はある。ただし受入の態勢が十分とはいえない。大学の受入枠も然り、企業の雇用も然りである。二つとも人事交流を柱としている。人と人が対等に行き交って初めてWINWINのビジネスが成り立つ。

中国をパートナーとしてともに経済発展を目指していくことが、日本、中国、広い意味でのアジア諸国、さらに広げて世界の発展に繋がることを望んでやまない。