米国企業のストックオプション制度は今年かぎり?

●ニュースヘッドライン

長らく低迷していたハイテク株の反騰で、ハイテク企業の社員はついにストックオプションを行使しはじめた。こうした一攫千金のチャンスが魅力のストックオプションだが、来年からは、スックオプションを費用として計上することを企業に義務づける形で会計基準が改められることを受けて、各社はストックオプションの見直しを始めている。現金ボーナスへ移行し始める企業も出てきた。ストックオプション制度がもてはやされるのも今年が最後と見る専門家もいる。
http://www.hotwired.co.jp/news/news/20040209106.html


●人事の処方箋

社員の引き留めには、マズローの欲求五段階説とハーズバーグの衛生理論のアプローチを取り入れよ。


●Tomのもの申す

人の欲求というのは際限のないものだから厄介だ。ただ人はどうすれば動くのかということをよく考えて行動すると、欲求を満たすためのマネーゲームに突入せずにすむ。

ストックオプションであなたも一攫千金の夢みてみませんか」なんてキャッチコピーの宣伝で、ゴールドラッシュを夢見るものがベンチャーに誘われ、ベンチャーを立ち上げた1990年代後半。一瞬にしてやってきた波に上手くのれたものを除き、2000年にはネットバブルが崩壊し、大半のものは波に溺れ、オプションはただの紙切れと化した。

サラリーマンにとって、ストック・オプションは夢が見れるいい道具であった時代もあったが、価値の上昇が期待できない以上、また紙切れになることを知ってしまった以上、金に群がる輩はより現実的な「社会生活を満たす」欲求を求めるようになった。あたらない宝くじより、労働に対する報酬や就業機会そのものを望んだ。

一方、投資家はそもそも株価の値上がりだけを期待して事業に投資している。その投資家が、株価をあげるプレッシャーばかりを経営陣にかけ、肝心なコントロールを怠ったため、経営陣が「ずる」をした。2001年のエンロン粉飾決算、2002年のワールドコム粉飾決算は記憶に新しい。これらの事件は、投資家の経営者に対する警戒を強めるきっかけとなった。当然、投資家は決算の透明性を求めることになったわけだ。ストックオプションの費用を経費として決算に計上しろという圧力だ。

では経営陣はこれらの流れをどう捉えているのだろうか。経営陣にとって株価を上げることは、投資家からもっとも強く要求される課題であり、それが達成できないと即クビだ。だから株価が上昇するように経営することは、経営者の目標に完全に合致する。株式という「ニンジン」は経営者のためにぶらさげられるといっても過言ではない。年収にはマーケットの水準が存在するため、株式という業績一つでどうにでも転ぶ玉虫色の紙切れは魅力に映る。

これら、サラリーマン、投資家、経営陣の思惑に米財務会計基準審議会(FASB)が会計の透明性を求めてストックオプションの費用計上機運が一気に固まったわけである。

費用計上しても、企業のストックオプションに対する負担は実質的には変わらない。しかし、費用計上することで会計上の利益が圧縮されるため、投資家の目を気にする経営陣は、ストックオプションの付与によって会社業績を左右できるもの、つまり経営陣に絞って付与することになりそうだ。自作自演の奇妙な取引も、投資家である株主と利害が一致=「株価の上昇」するためだれにも咎められることはない。

会計上の影響の話をしたが、税務上はどう取り扱われるのであろうか。ストックオプションの権利行使時に発生した、付与時価格と市場価格との差は「機会損失」として、税務上は損金扱いが認められている=節税効果があり人件費を節約できる制度になっている。だから、ストックオプションの費用計上は会計上の取り扱いの変更であって、税務上の取り扱いは変わらず優遇処理されている。

かくして2005年以降のストックオプションは、経営陣のためにぶるさげられる「ニンジン」として存続することになろう。経営陣はそれでモチベーションをコントロールできるとして、サラリーマンはどのような対策をうったらよいのであろうか。

まず、不況の時代であるからまずは足元を固める策をとるべきだ。マズローの欲求五段階説の、ピラミッドの底辺(1−3)から攻める。

1.生理的欲求(社会的生活を営む最低限賃金)
2.安全の欲求(安全なところに暮らせるレベルの賃金、社会保険のベネフィット)
3.親和の欲求(家族や友人と交際費、娯楽費)
4.自我の欲求(存在の認識、昇格/昇進、名誉、表彰)
5.自己実現の欲求(自己啓発、目標の達成、働き甲斐、キャリアアップ)

1−3まではマーケット水準かやや下でも組織は運営できる。ハーズバーグの衛生理論によると、金銭的欲求は不満足要因であり、多くあげたとしても決して満足に至らないものとされ、一方目標の達成や昇進は満足要因とされ、与えれば与えるほど満足感が得られるものとされている。

これらを勘案して、モチベーションを高めるには、金銭的な報酬はそこそこに、不満が出ない程度にバリエーションと頻度を持って、目標の達成や昇進といったマズローの4、5、ハーズバーグの満足要因を高める工夫をするべきなのである。

金銭的な報償は、予算さえ取れれば比較的簡単に実施できる。この不況の時代、どの企業も総人件費抑制に走るわけで予算増はそもそも期待できない。だからそこ企業は知恵を絞り、あっと驚くユニークな非金銭的なモチベーションアップ方法を考えて実行して欲しい。まずは考えることであり、失敗を恐れず、実行することだ。